第4 米国連邦最高裁判決
Reynolds v. Sims 377 U.S.533, 84 S.Ct.(1964)

米国連邦最高裁判決・Reynolds v. Sims 377 U.S.533, 84 S.Ct.(1964)は、アラバマ州の選挙法を違憲・無効とした。当時のアラバマ州の選挙法は、黒人が多数住んでいる選挙区の1票と白人が多数住んでいる選挙区の1票に、格差を設けていた。即ち、黒人が多数を占める地区に住所を有する有権者は、住所によって、「一票の不平等」を甘受することを強いられていたのである。この1964年の米国連邦最高裁判決により、米国人は、白人であれ、黒人であれ、住所の如何を問わず、一人一票の選挙権を得た。
アメリカは、1776年のアメリカ独立戦争を経て人類史上初めて民主主義国家を創り上げた。そのアメリカですら、白人の人口の多い選挙区か、黒人の人口の多い選挙区かという、住所の差異によって生じる「一票の不平等」の問題を、選挙という民主主義の仕組みによって解決できなかった。司法が、これを解決した。司法が、「一人一票」という「法の支配」を実現した。この歴史的事実は、『司法が国家に対して果たさなければならない重い使命が何であるか』を雄弁に物語っている。立法府も行政府も、この司法の使命を代替できない。
人類の歴史をみるに、民主主義は、(イ)アメリカ独立戦争のような革命か、又は(ロ)アメリカ連邦最高裁判決によって、生まれた。上記のアラバマ州の例を見ればわかるとおり、民主主義は、選挙という民主主義の手続をいくら繰り返しても、それによっては生まれ得ない。
上記米国連邦最高裁判決の文中に、「People, not land or trees or pastures, vote.」という一文がある。私は、この一文に感動した。米国民は、この一文によって、「人間が、土地でも、木でも、牧草地でもないことは、誰も争えない。同様に、人間一人一人が、1票を持っていることも、誰も争えない。」と納得したのであろう。

今(2009年)の日本では、人口の過半数を占める人口密度の比較的高い地域の住民が、「一人一票」を有していない。1964年当時、米国では、「一票の不平等」で不利益を強いられている黒人は、人口の11%のマイノリティであった。 一票未満の選挙権しか持たない国民が人口の過半数を占めている今の日本の方が、「一票の不平等」で不利益を強いられている人々(黒人)が人口の11%しか占めていなかった1964年当時の米国より、「一人一票」を実現するためには、遙かに容易なハズである。

公職選挙法が、住所が何処かに拘わらず、全有権者が「一人一票」を有すると定めるように変われば、「一人一票」の投票権を持つ有権者の利益を代表する政党が新しく生まれよう。法律も、予算も、税金の使途も、年金の額も変わろう。世襲議員の問題も一気に解決するであろう。


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