第3 参議院選挙の選挙権の価値も
「一人一票」である  

(1) アメリカ合衆国連邦は、50の州から成る連邦国家である。これに対して、日本は、単一国家である。連邦国家であるアメリカ合衆国の上院と単一国家である日本の参議院とは、全く性質が異なる。
「日本の参議院議員の一票の格差の程度(最大で約5倍)は、アメリカ合衆国の上院における一票の格差と比べれば、まだ格差の程度が低いから、許容の範囲である」という議論があるとしよう。しかし、この議論は、説得力を欠く。
以下、詳論する。

アメリカ合衆国連邦の各州は、国(State)である。各州は、それぞれ
  @州の立法府を有し、
  A州の憲法及び法律を有し、
  B州の最高裁判所、州の高等裁判所、州の地方裁判所を有し、
  C州の行政府を有し、
  D州の軍隊を有し、かつ
  E課税権を有している。
このように、アメリカ合衆国連邦の各州は、国家である。

ところが日本の都、道、府、県は、いずれも、(イ)地方公共団体の憲法、(ロ)地方公共団体の法律、(ハ)地方公共団体の最高裁判所、(ニ)地方公共団体の高等裁判所、(ホ)地方公共団体の地方裁判所、(ヘ)地方公共団体の軍隊のいずれをも有していない。又、(ト)日本の都道府県は、実質的にみて、課税権を有していない。
以上のとおり、日本の都道府県は、国(State)としての要件を欠いている。日本の都道府県は、単なる行政区画である。

加えて、アメリカ合衆国連邦憲法は、各州が連邦上院議員を平等に選任できることを明記している。13州がアメリカ合衆国連邦を建国した際及びその後に残りの37州が、次々とアメリカ合衆国連邦に参加した。そして、各州は、連邦上院議員の選挙については各州の有権者毎に一票の格差が生じ得る憲法上の条文、即ち、各州が上院議員の平等な選任権を有する旨定めた条文を含むアメリカ合衆国連邦憲法に拘束されることを誓約して、アメリカ合衆国連邦に参加している。
従って、アメリカ合衆国連邦の上院議員選挙に於ける一票の格差の存在のアナロジーから、日本の参議院議員に於いても、一票の格差が生じてもよいという議論は、アメリカ合衆国の州は国(State)であるが、都道府県は日本国の単なる行政区画でしかないことを見落とした議論である。説得力を欠く、と言わざるを得ない。

(2) 参議院議員は、衆議院議員と共に、憲法43条により、「全国民を代表する」とされている。参議院議員は、憲法上、選出された地域の利益を代表する国会議員ではない。即ち、参議院選挙の選挙権について、参議院の特殊性を強調して、憲法14条によって保障されている国民の「一人一票」の権利を否定しようとしても、その議論をサポートする憲法上の根拠はない。憲法14条によって保障されている国民の「一人一票」の選挙権を否定出来る他の憲法上の定めがない以上、参議院選挙でも、「一人一票」の選挙権が、憲法14条に従って、全国民に与えられなければならない。


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